意図せずセフレが出来てしまった⑤
前回の桜坂の件から約一週間後、また西野さんと食事に行った。
いつもどおり食事に行って家路まで送ってもらい、車を降りようとした時に前回と同じ台詞を言われた。
「今日は?チューはなし?」
またきた。
来ると思ってたけどまた来やがった。
さてどうしよう、かわすか?
そう考えている間にも西野さんはどんどん顔を近づけてくる。
西野さんだしキスくらいならいいかな?
でもキスしてしまったらもうこのフラットな関係には戻れない気がする。
もう息が伝わってくるくらい顔は近い。
アホか!って突っ込むこともできる。顔を引くこともできる。
ああどうしよう。近すぎる。
意を決した。まぁ軽いキスくらいならいいっか。
唇に重ねた。
と思ったらいきなり舌を入れて来た。
本当にロマンチックのカケラもない。
「ちょっと!!」
という間もなかった。西野さんの舌が私の口内で動いている。
あれ・・・?
今度は私からキスをした。
長い間していたと思うけど時間にして多分数秒。
今度は服の上から胸を触ってくる。
その手を止めて、目で「じゃあね」を言ったあと車を降りた
意図せずセフレが出来てしまった④
まだまだ寒さの残る4月。
桜が徐々に咲き始めていた。
その日、私は冷麺が好きなので焼肉屋で冷麺を食べたいと言い、良さげなお店をその場で調べて行くことになった。
「飴ちゃんさ、福山雅治の桜坂って歌知ってる?」
「知ってるよ。有名でしょ。」
「まぁそうなんだけどさ。あれって、ただ桜の咲いてる坂について歌っているんじゃなくて桜坂っていう場所があるんだよ。」
「え?そうなの?ただ桜の咲いている坂について歌ってるんだと思ってたけど。」
「あれ?知らなかった?桜坂は地名なんだよ。近いし食べたら行ってみようよ。しょぼい坂だけど。」
これは本当に知らなかった。
関東圏出身の人はみんな知ってるのかな?
食事を終えてその桜坂へ車で向かった。
夜遅かったこともあり人はあまり居なくて、車で通ると数秒で通り過ぎてしまうくらい本当にこじんまりとした桜坂だった。
「ほら、しょぼい。」
「でも、満開だね。ライトアップしてくれたらもっと綺麗かも。」
「飴ちゃんのほうが綺麗だけどね。」
「そういう反応に困る嘘やめてくんない?」
「嘘じゃないよ。あ、そうそう、飴ちゃん俺と友達になって?ダメ?今まで客感ハンパなくてちょっと窮屈だったよ。」
「友達?だめだめ」
「なーんだよ!まだダメかよ!店でもっと金落とさなきゃだなー。」
「その通り」
当時、この桜坂のある場所から私の家までは車で10分強。そのまま家の近くまで送り届けてもらった。
家までではなく家の近くまでにしておいたのは、家の場所をまだ知られたくなかったから。
車を降りようとする度に毎回聞かされる西野さんのお決まりの台詞がある。
「俺は結婚もしてるし子供もいる。こんなふうに飴ちゃんを食事に誘うのは迷惑だっていうのは自覚してる。だからこそ俺をいいように使ってほしい。お店にも行くしアッシーだってなんでもするから。飴ちゃんとはこれからもこうやってデートしたい。けど、飴ちゃんが嫌だって思うことは俺もしたくないから嫌な時は嫌って言って。」
「それ何回もきいてるよ。まだそんな関係じゃないでしょ。」
西野さんとそんな淡い不倫関係になるなんて考えられない。嫌だなんてとても言えないがここもまた適当にあしらっていた。
ドアに手をかけて降りようとした時
「ねぇ、チューして。チュー!」
いきなり何を言い出すのかと思った。
こんな誘い方で本当にキスする女なんて一人でもいるんだろうか。
なぜか「友達になりたいんじゃなかったの!?」というツッコミを入れられなかった。入れたかったんだけど。
思わず吹き出してしまった。
今日は焼肉でネギ臭いから無理!といって車を降りて家に帰った。次も誘われたらひとたまりもない。
帰りながら結局友達にさえなれないんだなと少し悲しくなった。
こちらが友達になりたいと思っていても相手は全く別の関係を望んでいる。
西野さんに関しては、お店に3人で来る時と、私と2人でいる時は少しだけギャップがある。男女の空気を出してくる。
お店で話すときはなんというか、学校の休み時間みたいに和気藹々としているんだけど。
店で出会った以上、私が客を客としか見ないように、大半のお客はキャストを下心の対象としか見ていない。
西野さんとはお店を辞めても付き合いを続けたいと思っていた矢先ちょっとショックだった。
意図せずセフレが出来てしまった②
相手の空気を読みつつ適度に会話をするのが我々キャバ嬢の仕事だ。
喋りすぎず黙りすぎず、リラックスしながら家でお酒を交わしているような心地よい空気を演出できるのが自分の強みだと思っている。
だがそれはパフォーマンス。
次も来店して貰えるよう、内心必死。
酒飲みながら会話するだけでしょ?楽じゃん。
なんて言われることもあるけど少なくとも私は楽しいとは思うことはあっても、「楽だ」と思った事は一度も無い。喋るのが好きな人は楽だと思うのかもしれない。
化けの皮をはがせば、ただの口数が少ない人見知りの女。基本的に人と話すのは苦手だし自分をさらけ出すのも怖い。
それ故、恋愛経験も乏しい。
好きな人が出来ても自分をさらけ出せず中身のない女だと思われ、いい感じになる前に終わる。自分から好きになる恋は上手くいかず、相手から来る恋はわりかし上手くいく。
押されてとりあえず付き合ったら、知らず知らずのうちに自分の方が相手を好きになっている。
そんな流され恋愛が多い。
今の彼氏もそんな感じで付き合い始め、かれこれもうすぐ四年になる。四年ともなれば互いのことはだいたい分かってるし一緒にいても苦ではない。
仕事で時間もあまりなければ、休みができても疲れて1日中寝ている彼に少しフラストレーションを感じていた。我慢できないほどではないんだけどなんとなく、物足りないなという感じで。
それを指摘したところで彼の負担になるだけなのは分かっているし逆の立場になって考えてみたらたまったもんじゃない。
そんな結果の見えないことでいちいち考え込んでいても何の生産性も無いのですぐ忘れるようにしていた。なので少々不満はあっても別に苦ではなくむしろ楽しいことの方が多かった。
だがある日を境に少し状況が変わった。
意図せずセフレが出来てしまった①
過ぎた恋の詳細なんて時間が経てばすぐ忘れてしまうものだ。今日はもう終わらせようと思っている恋について備忘録的に書こうと思う。
いつかこの恋を思い出した時に、こんなこともあったなぁと振り返れたらまぁ楽しいだろうなと思って。
なんて陳腐なセンチメンタル文章を書いている場合ではない。
いまの状況ははっきり言えばクソほど最悪だ。
私は夜の店で働いている。いわゆるキャバクラ。(色々嫌になり今月で辞めるけど)
水商売歴は通算して約2年。
いまの店に入って1年と少し。
同じ店に1年もいれば嫌でも自分のお客さんは増えてくるし稼ぎもそこそこになる。
ぱっと見ただけでどんな性格の人間なのか分かるようになるし、金があるか無いか一瞬で見分けられるようになる。
よくお客様に聞かれることといえば嬢と客の恋は本当にあるのかどうか。
これはドラマや都市伝説で水商売に対してそういうイメージが広がってるだけで現実全く無いと言ってもいい。
というか客をそういう目で見ることはないし、自分の働いてる店に客として入って来た以上、原則客は客のまま。
なにがどうなっても恋には絶対に発展しない
はずだった。
この2年間、お客様と恋愛関係に発展したことは一度も無い。もちろん素敵な人は沢山いたし、お客様に対してかっこいいなぁと思う事も多い。
だがこちらからすればお客様はお客様。
夜の仕事とはいえ仕事は仕事だからわたしの中で公私混同は言語道断だった。はずなのに。