意図せずセフレが出来てしまった⑦
事を終えて、私は不思議と罪悪感が無かった。
割り切りの関係であって気持ちは入らないと思っていたから。
疲れ果てて眠る西野さんの横顔をずっと見ていた。
時刻にして丑三つ時。西野さんは朝5時から仕事だという。
本当にタフな人。
真実かどうかは定かじゃないが、西野さんは嘘をつかない。
多分本当に数時間後には仕事だ。
「はっ!俺とした事が。少し寝てしまった。」
「いいよ、疲れてんでしょ。少し寝なよ。」
少し休んで1時間後、ホテルを出た。
家路に向かっている途中
「今日はこのへんでもいい?この道からいく方が帰りやすいから。」
「大丈夫だよ、じゃあね。」
なんとなく、今日でもう終わりかなという気がした。
もう西野さんは目的を果たしたであろうから。
家につき私も眠りにつく。
取り返しがつかなくなるような予感がした。
西野さんではなく私が。
あらぬ感情が湧き上がりそうで怖かった。
意図せずセフレが出来てしまった 6.5
実は西野さんとは以前にもホテルに行ってしまったことがある。
断りきれなくてついていってしまったが、西野さんなら大丈夫だろうという思い込みもあった。
それがいつだったかはよく思い出せないのだけどそう過去のことではない。
時系列がはっきりしていないので6.5という形で書きます。
分かりづらくてスミマセン。
結果から言うと、この時は何もせずにただホテルで数時間休んで帰った。
ホテルに行くなんて少しも想像していなくて私にとっては本当に予想外の展開だった。ベッドに横たわり、隣にきてという西野さんをよそに私は呆然としながらビールを飲んでいた。
そうでもしないとその場を乗り切れないと思ったから。
「ごめん、酒でも飲まないとこの場をやりきれない。」
「いやいや、無理しなくていいよ。俺も無理にしようとは思わないから。ゆっくりして。」
嫌味ったらしくもなんともなく、フラットにそう言った。
こちらのペースを崩さず乱さずな西野さんの余裕がまた愛おしいと思った。
いてもたってもいられず、何を話していいかもわからず、煙草に火をつけた。
「飴ちゃん今日吸いすぎじゃない?」
「いやぁ、何していいかわかんなくて。ちょっと今何も考えられなくて会話できないかも。」
「無理しなくていいよ。」
これが少し前の出来事。
この時は本当に本当に早く帰りたかった。
とまぁ、こんなことが過去にあったんですよってお話です。
意図せずセフレが出来てしまった⑥
あの日から私はおかしくなった。
何をしていても気がつくと西野さんの事を考えている。
なぜ西野さんの事を考えてしまうのか全く分からなかった。
1ミリも意識していなかったのに。
気付くと西野さんの連絡を待っている自分がいる。
そんな生活をしていた。
その数日後またいつものように食事に行き、そしてベタだけど夜景を見に行った。誰かと夜景を見に行くなんて5年ぶりくらいだったかも。
食事を終えて、一時間ほど車を走らせて都内の夜景が一望できる某所へ向かった。平日の夜だったので人はまばらでカップルが数組。
山の上に公園のような広場があってそこから景色を一望できる。
片隅に車を止めてベンチのほうへ歩く途中、月明かりに照らされた桜と新緑のコントラストがとても綺麗だった。
車で向かっている途中西野さんは、ここに来るの何年ぶりだろうなぁなんて話していた。きっと女の子を何回か連れていったんだろう。
そんなことはどうでもいい。
私はこの状況はなんなんだろう、ただの付き合いたてのカップルのデートじゃないか。なんて考えていてちょっと寒気がした。
無言で二人夜景を見る。
すると西野さんは何を思ったのか趣味の釣りの話をした。
西野さんはバス釣りが趣味で休みさえできれば釣りに行く。
そして1日のほとんどを釣りに費やす。
家族と釣りの為に生きているような人。
「月の様子で翌日の釣り具合を予想できるんだ。ちょうどこんな月の日の翌日はいい具合に釣れる。悪天候の後の釣りもまた面白いんだよ。倒れた木や藪の中に魚が隠れているんだけど、それらにルアーが引っかからないように水の流れと試行錯誤しながらどう釣り上げるか考えるんだ。」
この時の西野さんは少年みたいだった。
本当に楽しそうに話をする。私にもわかりやすく面白く。
気付くと数組いたカップルは一組になっていた。
「っていうのが俺の休日だよ。寒いしそろそろ行こうか。あのカップルを2人きりにしてあげようぜ。」
「カップルじゃないかもよ、親子かもよ。」
「親子であんな近い距離で座るかよ。しかも夜景なんて親子で見にいかねーだろ。」
「そうかな。」
「そうだよ。」
車まで歩いていると、満開の桜の枝から満月が覗いていた。
「月明かりに照らされた桜ってこんなに綺麗なんだね。東京でこんな景色が見れるなんて思ってなかった。」
「俺は横の新緑も好きだよ。」
「本当だ。こっちもいいね。」
いつもギャグみたいなことしか言わない西野さんとこんな会話になるなんて。良いのか悪いのか分からないギャップだ。
「ねぇ飴ちゃん、ちゅーして」
「はぁ?嫌だよ」
「なんで!ちゅーしてよ。」
1回キスしたくらいでそんな関係になれると思うなよ、というのが正直なところ。それでも、いちいち了承を得ようとする西野さんがまた面白かった。
「無理。」
「ふーん。じゃあいいや。」
発泡スチロールより軽いであろう西野さんのこういうノリは段々嫌いじゃなくなってきた。多分西野さんじゃなければこんなデートすることも無かったと思う。
その後はまた1時間ほどかけて元の場所に戻り、ホテルへ向かった。
この時はもうどうなってもいいと思っていたと思う。
西野さんはお酒を飲まないので、私も必然的にほとんど飲まない。
同じテンションを保ちたいから飲まないだけで我慢しているわけではない。
ホテルに着くなり西野さんはソファに寝転がっていたので、私はベッドに寝転がった。
すると西野さんが入ってきた。
彼氏と付き合い始めて約4年、私は初めて浮気をした。
西野さんと出会ったきっかけ
2016年夏。
この時期は仕事があまりうまくいかずプライベートでも色々あり、精神的に荒んでいた。
自分のことで精一杯で、お客様との連絡のやりとりも疎かになっていた。
そんな中やってきたフリー3名。
3人ともTシャツにデニムのラフな格好。
私は西野さんという方についた。
身長は低め、やや色黒で短髪のどこにでも居そうな30代前半の男性。
こう書くとサーフ系のチャラい感じに聞こえるかもしれないけど、イメージ的には坂上忍とか山口智充みたいな、ああいうお父さんっぽい感じ。
3人ともよく喋る人達だったので私はほとんど話していない。
というか多くのフリー客の1人という感覚だったので何を話したかもよく覚えていない。完全に流れ作業だった。
それでも居心地は悪くなかったと思う。
何を話そう、どこから突っ込もうか...と考えている間にボーイに呼ばれてしまった。
「すみません、あまりお話できなくて。3人ともすごく面白い方なので話に夢中になってしまいました。ご馳走様です、失礼します。」
これは本当。何の話したかは覚えてないけど面白かったことだけは覚えてる。
「いてよ。嫌じゃないなら。」
「え、いいんですか?」
ほぼ話していないのに場内指名をもらってしまった。
それから月1~2回のペースで来るようになり毎回数十万使っていた。
西野さんはお酒を飲まない。お店に来るときは友人か先輩を1人か2人連れてきて、連れと店の女の子に飲ませる。
その後何度か食事の誘いをもらったが、私はお客さんと店を介さないで会うというのは避けていたので適当にあしらっていた。
誘われる毎にいちいち付き合っていたらキリが無い。
断ればすんなり諦めてくれるので正直楽だった。
それでもお店には来てくれていたから。
当時の私にとって西野さんはマナーも良くそれなりにお金を使ってくれる良いお客様。
確かに面白くて楽しい人だけど、お客という範疇は超えなかった。超えるとも思っていなかった。
西野さんは妻子持ち。小学生くらいの娘と息子が2人いるという。嫁とは数年程レスらしくそういう感情も沸かなくなったとは言っていたが、客によくありがちな嫁を貶して相手の女を褒めるというようなことをしなかった。
そこが他の既婚のお客とは違う点だった。
好感的だ。
そんな感じで約半年が過ぎ、引き続きお店には来てくれてはいたが頻繁に食事やデートを誘ってくるようになった。正直面倒臭かった。
ましてや既婚者。面倒なことにはなりたくなかった。ただ、西野さんは自分がお酒を飲まないにも関わらず「君にポイントが入るなら」と接待なり何なり定期的に店を使ってくれていた。この関係を終わらせたくなかった。
もし西野さんが店にもあまり来ずお金も使わない客だったらこの先の展開は一切無かったと思う。
そんな訳で危ない人ではないし、一切お触りもない人なので食事なら1回くらい行ってもいいかという気持ちで誘いに乗った。
それが今年の確か2月くらい。
まだ寒さの残る季節に鍋のお店に行った。
家の近くまで迎えに来てもらい、そのまま車で。
私は何してるんだろうと悶々とした気持ちになりながら鍋をつついていた。
やはり店を介さないデートは仕事感が抜けるので会話が弾まない。
でも会話しなければいけない。
考えているうちによく分からなくなってきたので、この時間は仕事や会話のことは忘れてゆっくりリラックスすることにした。
何故か西野さんはそうさせる空気を持っていた。
こんなんで西野さんは楽しいはずがないだろうと思っていたけど、西野さんは喋る喋る。わたしがあまりにも静かなので多少頑張ってくれていたんだと思う。その後も懲りずに何度もデートに誘ってきた。
そんな感じでデートや同伴を何度か重ね、一緒にいるのが楽しくなってきた。ただ、気の合う友達みたいなもので特に特別な感情は抱かなかった。
そして、そうこうしているうちに不覚にも西野さんを好きになってしまっていた。
人を好きになるって本当に不思議なもので、好きになった理由なんて説明ができない。
気付いたら好きになっていた。
不倫や浮気なんて自分には絶対ありえないと思っていた。
最低なことだから、というより誰1人幸せになれない関係に自ら足を踏み込むなんて気が知れなかった。
私が既婚者を好きになるなんて。
自然にこうなってしまったのか、西野さんの巧みな計算なのか、なんなのか。
そんなこんなで今に至るのでした。
意図せずセフレが出来てしまった⑤
前回の桜坂の件から約一週間後、また西野さんと食事に行った。
いつもどおり食事に行って家路まで送ってもらい、車を降りようとした時に前回と同じ台詞を言われた。
「今日は?チューはなし?」
またきた。
来ると思ってたけどまた来やがった。
さてどうしよう、かわすか?
そう考えている間にも西野さんはどんどん顔を近づけてくる。
西野さんだしキスくらいならいいかな?
でもキスしてしまったらもうこのフラットな関係には戻れない気がする。
もう息が伝わってくるくらい顔は近い。
アホか!って突っ込むこともできる。顔を引くこともできる。
ああどうしよう。近すぎる。
意を決した。まぁ軽いキスくらいならいいっか。
唇に重ねた。
と思ったらいきなり舌を入れて来た。
本当にロマンチックのカケラもない。
「ちょっと!!」
という間もなかった。西野さんの舌が私の口内で動いている。
あれ・・・?
今度は私からキスをした。
長い間していたと思うけど時間にして多分数秒。
今度は服の上から胸を触ってくる。
その手を止めて、目で「じゃあね」を言ったあと車を降りた
意図せずセフレが出来てしまった④
まだまだ寒さの残る4月。
桜が徐々に咲き始めていた。
その日、私は冷麺が好きなので焼肉屋で冷麺を食べたいと言い、良さげなお店をその場で調べて行くことになった。
「飴ちゃんさ、福山雅治の桜坂って歌知ってる?」
「知ってるよ。有名でしょ。」
「まぁそうなんだけどさ。あれって、ただ桜の咲いてる坂について歌っているんじゃなくて桜坂っていう場所があるんだよ。」
「え?そうなの?ただ桜の咲いている坂について歌ってるんだと思ってたけど。」
「あれ?知らなかった?桜坂は地名なんだよ。近いし食べたら行ってみようよ。しょぼい坂だけど。」
これは本当に知らなかった。
関東圏出身の人はみんな知ってるのかな?
食事を終えてその桜坂へ車で向かった。
夜遅かったこともあり人はあまり居なくて、車で通ると数秒で通り過ぎてしまうくらい本当にこじんまりとした桜坂だった。
「ほら、しょぼい。」
「でも、満開だね。ライトアップしてくれたらもっと綺麗かも。」
「飴ちゃんのほうが綺麗だけどね。」
「そういう反応に困る嘘やめてくんない?」
「嘘じゃないよ。あ、そうそう、飴ちゃん俺と友達になって?ダメ?今まで客感ハンパなくてちょっと窮屈だったよ。」
「友達?だめだめ」
「なーんだよ!まだダメかよ!店でもっと金落とさなきゃだなー。」
「その通り」
当時、この桜坂のある場所から私の家までは車で10分強。そのまま家の近くまで送り届けてもらった。
家までではなく家の近くまでにしておいたのは、家の場所をまだ知られたくなかったから。
車を降りようとする度に毎回聞かされる西野さんのお決まりの台詞がある。
「俺は結婚もしてるし子供もいる。こんなふうに飴ちゃんを食事に誘うのは迷惑だっていうのは自覚してる。だからこそ俺をいいように使ってほしい。お店にも行くしアッシーだってなんでもするから。飴ちゃんとはこれからもこうやってデートしたい。けど、飴ちゃんが嫌だって思うことは俺もしたくないから嫌な時は嫌って言って。」
「それ何回もきいてるよ。まだそんな関係じゃないでしょ。」
西野さんとそんな淡い不倫関係になるなんて考えられない。嫌だなんてとても言えないがここもまた適当にあしらっていた。
ドアに手をかけて降りようとした時
「ねぇ、チューして。チュー!」
いきなり何を言い出すのかと思った。
こんな誘い方で本当にキスする女なんて一人でもいるんだろうか。
なぜか「友達になりたいんじゃなかったの!?」というツッコミを入れられなかった。入れたかったんだけど。
思わず吹き出してしまった。
今日は焼肉でネギ臭いから無理!といって車を降りて家に帰った。次も誘われたらひとたまりもない。
帰りながら結局友達にさえなれないんだなと少し悲しくなった。
こちらが友達になりたいと思っていても相手は全く別の関係を望んでいる。
西野さんに関しては、お店に3人で来る時と、私と2人でいる時は少しだけギャップがある。男女の空気を出してくる。
お店で話すときはなんというか、学校の休み時間みたいに和気藹々としているんだけど。
店で出会った以上、私が客を客としか見ないように、大半のお客はキャストを下心の対象としか見ていない。
西野さんとはお店を辞めても付き合いを続けたいと思っていた矢先ちょっとショックだった。
意図せずセフレが出来てしまった②
相手の空気を読みつつ適度に会話をするのが我々キャバ嬢の仕事だ。
喋りすぎず黙りすぎず、リラックスしながら家でお酒を交わしているような心地よい空気を演出できるのが自分の強みだと思っている。
だがそれはパフォーマンス。
次も来店して貰えるよう、内心必死。
酒飲みながら会話するだけでしょ?楽じゃん。
なんて言われることもあるけど少なくとも私は楽しいとは思うことはあっても、「楽だ」と思った事は一度も無い。喋るのが好きな人は楽だと思うのかもしれない。
化けの皮をはがせば、ただの口数が少ない人見知りの女。基本的に人と話すのは苦手だし自分をさらけ出すのも怖い。
それ故、恋愛経験も乏しい。
好きな人が出来ても自分をさらけ出せず中身のない女だと思われ、いい感じになる前に終わる。自分から好きになる恋は上手くいかず、相手から来る恋はわりかし上手くいく。
押されてとりあえず付き合ったら、知らず知らずのうちに自分の方が相手を好きになっている。
そんな流され恋愛が多い。
今の彼氏もそんな感じで付き合い始め、かれこれもうすぐ四年になる。四年ともなれば互いのことはだいたい分かってるし一緒にいても苦ではない。
仕事で時間もあまりなければ、休みができても疲れて1日中寝ている彼に少しフラストレーションを感じていた。我慢できないほどではないんだけどなんとなく、物足りないなという感じで。
それを指摘したところで彼の負担になるだけなのは分かっているし逆の立場になって考えてみたらたまったもんじゃない。
そんな結果の見えないことでいちいち考え込んでいても何の生産性も無いのですぐ忘れるようにしていた。なので少々不満はあっても別に苦ではなくむしろ楽しいことの方が多かった。
だがある日を境に少し状況が変わった。