西野さんと出会ったきっかけ
2016年夏。
この時期は仕事があまりうまくいかずプライベートでも色々あり、精神的に荒んでいた。
自分のことで精一杯で、お客様との連絡のやりとりも疎かになっていた。
そんな中やってきたフリー3名。
3人ともTシャツにデニムのラフな格好。
私は西野さんという方についた。
身長は低め、やや色黒で短髪のどこにでも居そうな30代前半の男性。
こう書くとサーフ系のチャラい感じに聞こえるかもしれないけど、イメージ的には坂上忍とか山口智充みたいな、ああいうお父さんっぽい感じ。
3人ともよく喋る人達だったので私はほとんど話していない。
というか多くのフリー客の1人という感覚だったので何を話したかもよく覚えていない。完全に流れ作業だった。
それでも居心地は悪くなかったと思う。
何を話そう、どこから突っ込もうか...と考えている間にボーイに呼ばれてしまった。
「すみません、あまりお話できなくて。3人ともすごく面白い方なので話に夢中になってしまいました。ご馳走様です、失礼します。」
これは本当。何の話したかは覚えてないけど面白かったことだけは覚えてる。
「いてよ。嫌じゃないなら。」
「え、いいんですか?」
ほぼ話していないのに場内指名をもらってしまった。
それから月1~2回のペースで来るようになり毎回数十万使っていた。
西野さんはお酒を飲まない。お店に来るときは友人か先輩を1人か2人連れてきて、連れと店の女の子に飲ませる。
その後何度か食事の誘いをもらったが、私はお客さんと店を介さないで会うというのは避けていたので適当にあしらっていた。
誘われる毎にいちいち付き合っていたらキリが無い。
断ればすんなり諦めてくれるので正直楽だった。
それでもお店には来てくれていたから。
当時の私にとって西野さんはマナーも良くそれなりにお金を使ってくれる良いお客様。
確かに面白くて楽しい人だけど、お客という範疇は超えなかった。超えるとも思っていなかった。
西野さんは妻子持ち。小学生くらいの娘と息子が2人いるという。嫁とは数年程レスらしくそういう感情も沸かなくなったとは言っていたが、客によくありがちな嫁を貶して相手の女を褒めるというようなことをしなかった。
そこが他の既婚のお客とは違う点だった。
好感的だ。
そんな感じで約半年が過ぎ、引き続きお店には来てくれてはいたが頻繁に食事やデートを誘ってくるようになった。正直面倒臭かった。
ましてや既婚者。面倒なことにはなりたくなかった。ただ、西野さんは自分がお酒を飲まないにも関わらず「君にポイントが入るなら」と接待なり何なり定期的に店を使ってくれていた。この関係を終わらせたくなかった。
もし西野さんが店にもあまり来ずお金も使わない客だったらこの先の展開は一切無かったと思う。
そんな訳で危ない人ではないし、一切お触りもない人なので食事なら1回くらい行ってもいいかという気持ちで誘いに乗った。
それが今年の確か2月くらい。
まだ寒さの残る季節に鍋のお店に行った。
家の近くまで迎えに来てもらい、そのまま車で。
私は何してるんだろうと悶々とした気持ちになりながら鍋をつついていた。
やはり店を介さないデートは仕事感が抜けるので会話が弾まない。
でも会話しなければいけない。
考えているうちによく分からなくなってきたので、この時間は仕事や会話のことは忘れてゆっくりリラックスすることにした。
何故か西野さんはそうさせる空気を持っていた。
こんなんで西野さんは楽しいはずがないだろうと思っていたけど、西野さんは喋る喋る。わたしがあまりにも静かなので多少頑張ってくれていたんだと思う。その後も懲りずに何度もデートに誘ってきた。
そんな感じでデートや同伴を何度か重ね、一緒にいるのが楽しくなってきた。ただ、気の合う友達みたいなもので特に特別な感情は抱かなかった。
そして、そうこうしているうちに不覚にも西野さんを好きになってしまっていた。
人を好きになるって本当に不思議なもので、好きになった理由なんて説明ができない。
気付いたら好きになっていた。
不倫や浮気なんて自分には絶対ありえないと思っていた。
最低なことだから、というより誰1人幸せになれない関係に自ら足を踏み込むなんて気が知れなかった。
私が既婚者を好きになるなんて。
自然にこうなってしまったのか、西野さんの巧みな計算なのか、なんなのか。
そんなこんなで今に至るのでした。