意図せずセフレが出来てしまった④
まだまだ寒さの残る4月。
桜が徐々に咲き始めていた。
その日、私は冷麺が好きなので焼肉屋で冷麺を食べたいと言い、良さげなお店をその場で調べて行くことになった。
「飴ちゃんさ、福山雅治の桜坂って歌知ってる?」
「知ってるよ。有名でしょ。」
「まぁそうなんだけどさ。あれって、ただ桜の咲いてる坂について歌っているんじゃなくて桜坂っていう場所があるんだよ。」
「え?そうなの?ただ桜の咲いている坂について歌ってるんだと思ってたけど。」
「あれ?知らなかった?桜坂は地名なんだよ。近いし食べたら行ってみようよ。しょぼい坂だけど。」
これは本当に知らなかった。
関東圏出身の人はみんな知ってるのかな?
食事を終えてその桜坂へ車で向かった。
夜遅かったこともあり人はあまり居なくて、車で通ると数秒で通り過ぎてしまうくらい本当にこじんまりとした桜坂だった。
「ほら、しょぼい。」
「でも、満開だね。ライトアップしてくれたらもっと綺麗かも。」
「飴ちゃんのほうが綺麗だけどね。」
「そういう反応に困る嘘やめてくんない?」
「嘘じゃないよ。あ、そうそう、飴ちゃん俺と友達になって?ダメ?今まで客感ハンパなくてちょっと窮屈だったよ。」
「友達?だめだめ」
「なーんだよ!まだダメかよ!店でもっと金落とさなきゃだなー。」
「その通り」
当時、この桜坂のある場所から私の家までは車で10分強。そのまま家の近くまで送り届けてもらった。
家までではなく家の近くまでにしておいたのは、家の場所をまだ知られたくなかったから。
車を降りようとする度に毎回聞かされる西野さんのお決まりの台詞がある。
「俺は結婚もしてるし子供もいる。こんなふうに飴ちゃんを食事に誘うのは迷惑だっていうのは自覚してる。だからこそ俺をいいように使ってほしい。お店にも行くしアッシーだってなんでもするから。飴ちゃんとはこれからもこうやってデートしたい。けど、飴ちゃんが嫌だって思うことは俺もしたくないから嫌な時は嫌って言って。」
「それ何回もきいてるよ。まだそんな関係じゃないでしょ。」
西野さんとそんな淡い不倫関係になるなんて考えられない。嫌だなんてとても言えないがここもまた適当にあしらっていた。
ドアに手をかけて降りようとした時
「ねぇ、チューして。チュー!」
いきなり何を言い出すのかと思った。
こんな誘い方で本当にキスする女なんて一人でもいるんだろうか。
なぜか「友達になりたいんじゃなかったの!?」というツッコミを入れられなかった。入れたかったんだけど。
思わず吹き出してしまった。
今日は焼肉でネギ臭いから無理!といって車を降りて家に帰った。次も誘われたらひとたまりもない。
帰りながら結局友達にさえなれないんだなと少し悲しくなった。
こちらが友達になりたいと思っていても相手は全く別の関係を望んでいる。
西野さんに関しては、お店に3人で来る時と、私と2人でいる時は少しだけギャップがある。男女の空気を出してくる。
お店で話すときはなんというか、学校の休み時間みたいに和気藹々としているんだけど。
店で出会った以上、私が客を客としか見ないように、大半のお客はキャストを下心の対象としか見ていない。
西野さんとはお店を辞めても付き合いを続けたいと思っていた矢先ちょっとショックだった。